試合は立ち上がりから拮抗した展開が続く。スペインはニコ・ウィリアムズ、ラミネ・ヤマルの独力突破から何度かゴールに迫る場面を作ったが、イングランドの最終ラインの集中した守備がフィニッシュまで持ち込ませない。大会最多の4度目の優勝を目指すスペインと、悲願の初優勝を狙うイングランド。EUROでは28年ぶりの激突となった両者はお互いに譲らないまま、前半をスコアレスで折り返した。スペインは「心臓」であるロドリが、前半にシュートブロックに飛び込んだ際の負傷で前半でピッチを退く緊急事態に見舞われた。しかし、スペインには逆境を打ち返す「若い翼」がある。後半開始直後、右サイドでパスを受けたラミネ・ヤマルが、得意のかたちでボックス内へ侵入。フリーで走り込んできたモラタにイングランド守備陣が引きつけられると、ヤマルはファーへ侵入してきたニコ・ウィリアムズを選択。スペイン自慢の両翼のホットラインでスペインが先制点をもぎ取った。イングランドも悲願の初優勝のために、執念を見せる。61分に精彩を欠くケインをあきらめワトキンスを投入。さらに切り札のパーマーを70分に投入してから、わずか3分後、パーマーからパスを受けたサカが右サイドで仕掛けを敢行。ボックス内へ通したサカのパスを、ベリンガムが、ボックス外へ落とす。走り込んできたパーマーの左足から放たれた一撃はがGKにとってはノーチャンスといえる”ここしかないコース”を正確に射抜いた。ベリンガムを警戒するあまり、パーマーをフリーにしてしまったスペインに、嫌な空気が漂い始める。しかし、その雰囲気を振り払ったのは、脇役だった。モラタに代わって68分から投入されていたオヤルサバルだった。オルモからの縦パスを、左サイドにはたき、ボールを保持したククレジャが、カイル・ウォーカーよりも一瞬早くボールにタッチし、相手ボックス内へグラウンダーのクロスを放った。スペースへ走り込んできたオヤルサバルが、競り合ったグエヒよりも先にボールに触れ、値千金の勝ち越しゴールを決めた。「魅せるサッカー」と選手個々の「才能」が一致した魅惑的なサッカーは、世界中のサッカーファンを満足させるに十分なほどファンタスティックだった。スペインは2連覇を達成した2012年大会以来、3大会ぶりの優勝を成し遂げた。これまで、ドイツと並んで歴代最多タイの数字となる3度の優勝を誇っていたものの、この勝利により単独トップに踊り出た。一方で、イングランド前回大会に続いて、またも決勝の舞台で涙を飲む結果となった。
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【ファイナル】 スペイン×イングランド(オリンピアシュタディオン・ベルリン)
2 ー 1
[得]
(ス)
47” ニコ・ウィリアムズ
86” オヤルサバル
(イ)
73” パーマー
【採点】(0~10の20段階評価。最低点は0。最高点は10。)
GK
23 ウナイ・シモン 6・5
前半のフォーデンのシュートをストップ。同点ゴールはノーチャンス。後半ATにはライスノ強烈なヘディングシュートを懸命にセーブした。
DF
2 カルバハル 6・5
前半終了間際に不注意からベリンガムにボールを奪われるなど、精彩を欠いていたが、後半は攻撃で躍動。ヤマルと良好な連携を見せ、制点の起点にもなった。
3 ル・ノルマン 6・5(83分→交代)
気迫あふれる守備で奮闘。ベリンガムと肉弾戦でやり合い、総じて勝利を収めた。
→4 ナチョ ー(83分→出場)
しっかりとル・ノルマンから守備を引き継いだ。
14 ラポルテ 7・5
ほとんど「完璧」なパフォーマンス。ファンタスティックなアイデアと精度が一致したビルドアップでチームのポゼッションに貢献。クレバーな守備も隙がなかった。
24 ククレジャ 7・5
サカの突破を警戒しながら総じて粘り強い守備を披露していた。針の穴を通すような正確なクロスで決勝ゴールをアシスト。
MF
16 ロドリ 6(46分→交代)
フォーデンのプレスをかいくぐりながら組み立てを行っていた。ハーフタイム直前にケインのシュートを見事にブロック。その過程でハムストリングを負傷し、前半でピッチを退き。チームに激震が走った。
→18 スビメンディ 6・5(46分→出場)
チームの「心臓」に代わって出場という難しい任務を負ったが、ロドリとは個性の違うプレーでポゼッションを助長していた。最終ラインと中盤を埋める仕事ではロドリに比べインテンシティが劣り、パーマーを自由にしてしまった。とはいえ総じて高いパフォーマンスだっただろう。
10 ダニ・オルモ 7・5(■31分)
ライスのマークを外し、幾つか効果的なプレーを生んでいた。試合終了間際には自陣ゴールラインぎりぎりに立ち、グエヒのシュートに驚異的なクリアを見せた。
8 ファビアン・ルイス 6・5
球離れが良く、ショートパスを多用し、イングランドの苛烈な警戒網から抜け出していた。守備でも果敢なプレスで奮闘していた。
FW
19 ラミネ・ヤマル 7・5(89分→交代)
前半はショーに封殺されていた。知性溢れるプレーでウィリアムズの先制点をアシストし、モラタに素晴らしいスルーパスを放つなど、後半に才能をフルに発揮した。
→6 メリノ 6(89分→出場)
守備のタスクをこなし試合を終わらせた。
17 ニコ・ウィリアムズ 8
立ち上がりこそウォーカーの守備に苦戦するも、後半開始直後に、左足を見事にコントロールして決めて値千金の先制弾を叩き込んだた。その後も何度もチャンスに絡むプレーを披露した。
7 モラタ 5・5 (68分→交代)
パスミスやシュートの判断に疑問が残るシーンこそあったものの、準決勝同様、両翼を活かすべくスペースを作るためのダイアゴナルランや高い守備意識を見せチームのために戦い続けた。
→21 オヤルサバル 7・5(68分→出場)
レイオフスピンとゴールへのラン。脇役ながら彼がこの大会で行っていた献身的な仕事が、大舞台の決勝ゴールという大仕事へと昇華し、チームに歓喜をもたらした。クロスがどこに来るかを正確に知っていた「完璧」なフィニッシュだった。
GK
1 ピックフォード 7
大舞台で気迫あふれるセービングを披露。66分にボックス右から放たれたヤマルのシュートをしっかり止めた。
DF
2 ウォーカー 6
前半は守備でも攻撃でも驚異的なプレーを見せていた。しかし後半にウィリアムズを逃がしてしまい、失点に関与してしまった。
5 ストーンズ 7 (■53分)
自陣ボックス内で気迫あふれる守備を披露。今大会最高のパフォーマンスだっただろう。
6 グエヒ 6・5
スピードを活かし、モラタにボールを収めさせなかった。対人プレーでの強さも光った。
3 ルーク・ショー 6
ヤマルに仕事をさせなかった前半の守備は評価に値。攻守でバランス感覚の優れたプレーを披露していたが、後半は守備の対応が後手に回ってしまった。
MF
26 メイヌー 5(70分→交代)
相手にパスコースを読まれ何度もインターセプトされるなど、ボールを前線に供給できず終始苦しんでいた。彼自身飛躍の大会となった決勝だったが、この試合は悔しい結果となった。
→24 パーマー 7・5 (70分→出場)
衝撃的なインパクトをピッチに残した。左足から放たれた同点ゴールは、ゴールの左隅、ここしかないコースを正確に射抜いた。
4 ライス 5・5
スペインのテクニカルな中盤に絶えずプレスをかけていた。決定機を創出するきっかけになるようなパスは味方に与えられなった。
7 サカ 7(90分+3→交代)
常に仕掛けを敢行できる勇気とスピードは間違いなく相手の脅威となっていた。ボールをしっかり保持し、同点ゴールの起点にもなった。
11 フォーデン 6
前半は効果的なプレスでロドリのパス供給を制限。後半もよく動いていたが、決定機を創出するには至らなかった。
10 ベリンガム 6
プレーにムラはあったが、同点ゴールのサカへ出したパスと、パーマーに落としたパスは秀逸だった。
FW
9 ケイン 4・5 (■25分)(61分→交代)
守備では奮闘していたが、攻撃面では何一つ「影響」を与えることができなかった。
→19 ワトキンス 5(61分→出場)(■90分+2)
準決勝のヒーローは、流れを変えるアクションがなく、ようやく相手の最終ラインを抜け出しても、
ボールを収めることもできなかった。